ファミリーレストランだけれども、薄暗くて、少し寒すぎるお店がわたしのまちには確かにあった。
内装は黒・紺くらいでまとめられていて、ひと机に一つの照明は、一つ一つ装飾が違っていた気がする。わたしはよく案内されると照明や周りの置物を確認した。よくよく見ると埃がついている。「あんまり見んでええから」と母に言われる。たまに蜘蛛の巣もある。
壁には外国の地図の絵が描いてあって、窓際には、普段おもちゃ屋では出会わない、見たことのない異国の置物と、蔓が伸び続けている観葉植物が置いてあった。弟がつい触ろうとするのだが、「汚いからやめなさい」と言われる。
料理を待つ間、お母さんに内緒でこの間じいちゃんばあちゃんと来たばっかりやから、店員さんが持って来てくれたのは、同じ塗り絵。手持ち無沙汰なので、とりあえず塗ってみたり、待望の一人ひとつのおもちゃを選んで眺めていたりする。わたしはぐっと堪えているけど、弟は眺めているうちに我慢できなくて、貰えたおもちゃの袋を開けようとする。「家帰ってから!」と母のかばんにしまわれたりする。
塗り絵も飽きて、空腹で胃がぎゅゆゅっと締め付けられている手持ち無沙汰な時間。「お腹減ったー」は言い続けていても、拾われなくなるし、救われない。空振りして落ちていく。お腹はすいていく。歌と同じように、お腹と背中が本当にくっ付くんじゃないかと、お腹と背中を触って確かめたりする。
頬杖をついて待っていて、「姿勢悪いぞ」とか父に言われたりして、弟がかばんにしまわれたおもちゃをやっぱり気にしていて、それにもイライラしてくる。時間を持て余していると、どこからともなくひんやりとした風がくる。寒い。ここはいつも寒い。母が「寒い」って毎回言い続けている。
トンネル3つ越えて来たけれど、このまちにはここでしか鉄板にのったハンバーグは食べられない。だから、いつもここは混んでいる。
ツノの生えた牛の鉄板に、ブロッコリーとコーン。嫌いなデカめのにんじんはポテトと交互に食べる。ハンバーグを食べ終わる前。きっと中ほどに。
きっとそう。いつも通りの流れで今日も食べるんやから!待ってる間、もう一度メニュー表を開く。「もう頼んだやん」とか言われるけれど。
弟の紙のエプロンはとっくに床に落ちた。だいぶ前につけたから。拾おうとしたら、「もう汚いから拾わんでいい」と母にやっぱり言われた。
先に来るのは、お子様ランチについているジュース。ストローには紙の果物が巻かれている。「ええなぁ!」と父が言う。
コーラ、メロンソーダ、オレンジジュース、ウーロン茶、ミルク。
わたしは保育園で飲み過ぎてて嫌やけど、弟はなぜかミルクを頼む。
コーラは、「骨とけるからあかん」と軽く制止されるけど、「じいちゃんいつも飲んどるやん!」で通して、この時だけの特別のコーラ。母もこうなると分かっているからなのか、強く禁止はしなかった。「炭酸やから今飲み過ぎたら、この後食べれんようになるで」までが決まったセリフな気がする。
小さいわたしと弟を連れて行くので、結局、大体同じ場所に通されていた。大体同じ景色だったあの場所のファミリーレストランは、今も変わらずにある。あんなに埃っぽくて、寒くて、じめじめしていたのに。
隣のボーリング場は潰れて、埋め立て地になった。
同じ場所で、同じメニューしか頼めないわたしは、いっしょに思い出も食べ続けている。じめじめと埃っぽいあの場所がそのままであり続けられますように。
✳︎
9回に渡る、わたしの10年の連載を終えてから、心がカラッとしてたのですが、またじめじめと、雨から曇り、時おり豪雨くらいの日々が戻ってきました。(早退もした。身体正直すぎてうける。)
3ヶ月くらいしか快晴なかった!くそ!!やっぱりか!!と思ってますが、またたくさん読んだり見たりがたのしく出来るようになってきました。こちらの方が性に合ってるのでしょうか。本当に面倒で嫌ですね。
なにも考えずにオシャレに過ごしたかったけれど、見逃せない、気になる心のうちなので、しっかり自分と話をしながら、残していきます。
穏やかな生活がつづくように、波を耕していける日常が続きますように。
0コメント