PROFILE
ひといきつくる
2022年8月〜9月、ウェブマガジン「アパートメント」にて「18歳のわたしへ」を連載。
2023年6月〜、自主企画「満月の夜、器をかざして思い出す」を毎月、満月の日に更新中。
(2024年5月 1年目終了。只今、下準備中。2024年秋〜 2年目開始。2025年秋 終了)
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わたしが小さかった頃、故郷で、夜にじいちゃんが操縦する船に乗せてもらうことがあった。空は暗く、海は日中とは異なり、深く黒々しいものだった。船に乗って、しばらくしてから進むのを止め、いつもいる町の方を見る。家々や電柱、時おり走る車の灯りがはっきりと目に焼きついた。そしてその奥に、いつもの山が圧倒的な存在感で、じっとそびえたっているのだった。
そこから船を旋回して一山越えると、さっきまでの町の灯りは見えなくなった。そして、辺りはより深く暗くなり、じいちゃんがいるといえども、ほんまにこの状況は大丈夫なんかな?と心配になる。そんな中、じいちゃんは、船のエンジンを一旦切る。辺りは急に静まりかえり、波が船に当たる音だけが聞こえる。
「ほれ、あれ見てみ」
じいちゃんが指差す方へと向くと、行ったことのない防波堤が陸から続いていて、そこには一つの灯台があった。灯台は、チカチカと、一定のリズムで光っている。
「あの灯りがいっつも海の安全を守ってくれとるんや。信号機みたいなもんやな」じいちゃんは言う。
船のエンジンを切ったから、波によって、わたしたちは陸とは反対方向へ流され続けていた。でも、言われるまでは気づけなかった。暗い中、遠くへ進み続けるのは不安だ。どうしようもないので、しばらくじいちゃんが指差す方、いつもいる町から続いた場所にある灯台を眺めていると、心細さが少し和らいだ。灯台は、チカチカと一定のリズムで光っている。
今でも天候が大荒れになると、灯台のことを思い出す。有事にしか思い出さないものだけど、灯台はいつも町から陸続きにあるのだ。
2023年〜、「満月の夜、器をかざして思い出す」を更新しています。わたしは、今、その灯台のイメージをもちながら書いています。静かに。正直に。
どこにいても、そのささやかな灯りに気がつけますように。